b-flower・八野英史 × ムクドリの会・高田博之 特別対談『春の風が吹いていたら』
昨年10月、東京高円寺でのムクドリの会主催イベント『another sunny day 2018』を大盛況のうちに終了。
同日発売のアナログ7インチ『I Wanna Be Free』の斬新なる新境地開拓、更に盟友The Laundriesとのスプリットフレキシ発売と、近年稀に見る怒涛の大活躍を見せてくれたb-flower。幾度かの度重なる困難を経てなお活動し続ける日本最古のネオアコバンドは枯れることを知らないらしい。
『今日までそして明日から』
そんな僕らの永遠のヒーローはいま何を考えているのか。これから何処へ向おうとしているのか。 b-flower八野英史氏にお話を伺いに行ってきました。
2019年、満開の桜が咲き乱れる春の京都にて。
*春の京都に来るのは初めて
夜行バスに乗り早朝の京都駅前に到着したのは朝6時。 ほとんどの店がまだ開いていない。 待ち合わせの時間までまだあるので、適当に時間を潰す。 毎日が時間に追われた生活をしているせいか、ちょっとした時間つぶしも逆に楽しかったりもする。 早朝の銭湯で、カフェで。夜行バスで来た割にはそれほど睡魔が襲ってこないのはよく寝れたせいか、それとも再会を前にしての逸る気持ちのせいか。 程無くして待ち合わせの時間に、待ち合わせ場所へ。 ほぼ定刻通りに再会。 軽く挨拶を交わし「さて行きましょうか」と八野さん。 男二人、京都市バスに乗り込む。 *京都市バス車内にて 高田「これいま何処に向かってるんですか?」 八野「北野白梅町って言って、嵐電っていう路面電車みたいなのが発車する最初の駅に向かってるの」 高田「それがあの?」 八野「そう『四月の恋』の時にね、配信のジャケ撮ろうと思って。そこで大分撮ったんですよ、路面電車やし。結局使われんかったけど(笑)撮影に行ったのは1月とかだったから何も咲いてなかったけどね(笑)」 (そしてバスは行く) さすがは京都。どこもかしこも観光客でごった返してる。 市バスの京都訛りのアナウンスが心地よい旅情を誘う。 ああそうか、いま僕は京都に来ているのだ。 暖かく心地よい車内に居るとさすがに眠気が襲ってくる。 レジェンドを横にしてなんとも失礼な(笑) 雷電北野白梅町駅から2両編成の列車に乗り込む。 おおこれはなんとも風情があってよい感じ。 まさしくこれはb-flower『四月の恋』の世界。 ちょっとした聖地巡礼。 『胸の深くで 旅を始めよう 桜町から 路面電車に乗って』(四月の恋)
リアルにうつらうつらしながら一度乗り換えて目的地に到着。 嵐山なんて何年振りだろう。 高校の時に修学旅行で来た以来。 もちろんその時の記憶なんてとっくの昔に吹き飛んでしまってる。 八野さん曰く『観光地オブ観光地』まさしくそれ! でもやっぱね、来てみると良いものですよ。 『川の流れに 願いを浮かべたら 花びらを惜しまず 春を舞う風にも あぁ 熱が下がらないんです うつらうつらの恋を行く』(四月の恋) 50過ぎの男同士、まさか嵐山を散策する日が来るなんてね。 本来の目的もしばし忘れて、観光客の流れに身を任せて。 ああ、橋の上で二人ツーショットの自撮りでもしとけばよかった(笑) お腹も空いたしどこかで休憩でも。
*京都嵐山のとあるピザ店にて 高田「昨年10月のライブ(ムクドリの会主催の高円寺HIGHでの『another sunny day 2018』)」を終えて、ひと段落してるというか、我々ムクドリの会も含めてその後はゆっくりしてるというか(笑)まあでもバンドでのリハしたりとか、次なる動きを模索してる段階?」 八野「そうですね、其処らへんは少しずつ動いている感じ。実は3月に行われたソウルフラワーユニオンのライブに誘われたりしててね」 高田「おおー!」 八野「それはたまたま魚さんが別のライブが決まってたので出れなかったんだけどね。でもそうやっていろいろとライブが決まってくれるのは有難いんだけど、レコーディングとか含めて作品を作るほうが追いついていかないという感じになってしまうんですよ。ライブやるとなればそっちのリハが優先になってしまうし」 高田「そうなんですね」 八野「でも、ライブを抑える代わりに作品を作る時間を設ける、僕の個人的ななんやかんやもあって時間を作ることを優先したいというか。歌詞をね、作ろうと思ってて。ちゃんと時間をかけて。ぜんぜん出来てないのが結構あるんですよ。リビングストンデイジーだけで5、6曲、いや7曲くらいあるかな。いい機会だししばらく没頭して作っていきたいんです」 高田「それは楽しみです」 八野「それと並行して曲の方もいくつか出来て来てるんです。今度バンドでリハをやるんですけど2曲くらい新曲も試してみようかと。実はそれとは別に10月のライブの時に歌詞が出来てればやってみれる新曲も2曲くらいあったんですよ」 高田「へー」 八野「ただね、そうなると逆にそれらを元にアルバムを作るとなると曲数が多くなってしまう。だから今それをどうしようかな、と。つまりは形にしていかなければならないものが溜まってきてる状態が今なんです」 やはりそうだったか。一度冬眠を経験したバンドは活動の一山超えたところでまた冬眠するはずはない。着々と次なる一手を模索していたのだ。まずは腰を据えて、じっくりと確実に。でも止まることはない。 *店頭ライブについて 八野「個人的な状況が少しずつ改善されつつある状況なので、すこしだけ心の余裕も出てきた。そういう意味からしても今度やる店頭ライブなんかにも参加してみようかな、とね」 高田「おおっ、でも店頭ライブって確か・・・」 八野「うん(笑)でもなんやかんや言ってられんし(笑)。最初(小林)しのさんから連絡が来てね。ランドリーズの二人(木村さん、遠山さん)も参加するってことで。多分遠山くんと一緒にやるパターンで数曲弾いてもらうことになるかもしれない。」 高田「苦手な店頭ライブを(笑)」 八野「うん(笑)全部見えるし、間違いも伝わるし(笑)止むを得ずやってる(笑)もちろんそれを得意な人ってのもいるだろうけど。PAもエレキもない状況で。僕なんか歌うことしか出来ないからね。それでもいいと言ってくれる人がいるのは有難いことなんだけどね」 高田「10月ライブの翌日にあった『タビラコ文化祭』での魚さんとのアコースティックライブ観たんですよ。あれ僕がいうのもなんですが、すごく良かったですよ。八野さん苦手だ嫌いだっていう割には、なんだ全然行けるじゃんって(笑)バンドでやるのも良いけど、またああいうスタイルは別物。もっとやったらいいんじゃないかなって」 八野「最初はね、やっぱバンドでやりたいってのがあってね。そのバンドでのライブも何回かやったんでね。魚さんと一緒に何度かやってきたし。大阪でやった時(seeds night)が一番緊張したかな(笑)二人とも手探りだったし。あの魚さんでもだよ」 高田「やっぱファンは本当嬉しいでしょうね。いろんなスタイルの演奏が聴けるってのは」 八野「昔の曲とかもいっぱいあるからね。もうちょっと出来たらいいんだけどね」 高田「今度の店頭ライブはレコード屋さんでしたっけ?」 八野「そう。そしたらトリでやってくれと(笑)それは勘弁してくれって(笑)」 高田「なにいってんすか。あのメンバーじゃトリになるの仕方ないじゃないですか(笑)」 【お知らせ】 5/18 名古屋RECORD SHOP ANDY インストアライブ 入場無料(投げ銭) 出演:小林しの(サポート高口大輔) The Laundries(木村、遠山) b-flower(八野英史) DJ:tarai、umerin(galaxy train) 2019年もお楽しみが盛り沢山。
*b-flower 7inch-Single『I Wanna Be Free』
高田「ちょっとだけb-flowerの最近の新曲(7インチとフレキシ)について感想言わせてください。一聴してまず感じたのは全体のミキシングというか音の構成の仕方。これがまず素晴らしいというかめっちゃロックしてる。今までにないくらい。それが、ああ、これからこういう感じでいくのかな、と感じれるミキシングでありサウンドであり。僕が思ってたネオアコってのを形で示してるような。上手く表現できませんが」 八野「うん、今のね、僕らがかっこいいと思う音を形にしたって感じ。音作りにせよなんにせよ。『純真』や『四月の恋』みたいに作り込んだ音ってのもあるけど、バンドで再スタートしようと決めたときに出てきたのがあの2曲でありサウンドでもあり」 高田「僕はいわゆるネオアコ的なキラキラしたサウンドには常に??な感じがあるんです。形式的な話なんですけど。本来そういうキラキラした形としての音じゃないのがネオアコだと思ってるし」 八野「そうだよね。エフェクターの使い方でキラキラはどうにでもなるけどそれがネオアコというわけではない。現にマリンガールズは(音として)キラキラしてない(笑)」 高田「今回のbのシングルは質感としてザラついてる。でもそれが現在のbであり、むしろこれこそがネオアコの本来の姿という気がしてならないんです」 キラキラには罪はない。が、しかし、それが僕らを惑わす場合もある。ネオアコ原体験組からすると、そのキラキラのの奥底に見え隠れする心のしわこそが僕らのいう『ネオアコ』であるのだ。マインドの伴わないそれは薄っぺらいエフェクターで増幅された紛い物でしかないのであろう。 その後、ネオアコ二人組はバスに乗り市内中心部へ。 そうなのだ、僕らはのほほんと観光をするために再会したのではない。 真の目的を達成しなければ。
僕のリクエストで京都レコード屋巡り。まさに念願の。
前回京都に訪れたときは(b-flower都雅都雅ライブ)レコ屋どころじゃなかったからね、移動するのが精一杯で(笑)
すべて八野さんの案内で数件回る。HOT LINE、JETSET KYOTO、HAPPY JACK、ART ROCK NO.1。
どれも個性的で魅力溢れるレコ屋。レコ屋に入った途端に少年の目に戻る50男。そうなのだ、僕らはバンドよりもなによりも音楽が大好きでそれが元で繋がってきたのだ。レコ屋こそが最高の観光地で僕らのオアシス。
僕も八野さんも数枚購入。そりゃそうなるって。 でもさすがに疲れて来たのと小腹が空いてきたので、これまた僕のリクエストであの有名な老舗カフェ『フランソワ喫茶室』へ。奇遇にもこの日はリニューアルオープン初日。どうりで混んでるわけだ。そういえばb-flower鈴木さんもここが好きだと話してたなあ。
僕は珈琲とレアチーズケーキ、八野さんはフレッシュクリーム入り珈琲とタルトボアール(洋梨のタルト)をオーダー。席はゴムの木の向こう側でなく角を曲がった奥座敷の入ってすぐのテーブル。これは新しいb-flower聖地巡礼スポットに指定だね。
*『フランソワ喫茶室』にて
八野「バンドも音楽も、最後はね、好きにやらしてもらおうかなと思ってる」 高田「最後って、別にどっか悪いわけじゃないですよね?」 八野「今のところはね(笑)でも明らかに体力は落ちていってる。ビックリするくらい」 高田「僕はまだ、まだやれるって思ってますよ。今日だって弾丸ツアーですし。むしろこういう無茶な遠征が出来るとなればまだあと3年はやれるかなと(笑)」 八野「湯田もね、同じ。リハして帰る。偉いなあ」 高田「湯田さんの雰囲気っていいですよね」 八野「リーダーやからね、元々。なんかね、僕のことすごい好きやっていってくれるの(笑)それに常に前向きやし、マイペースなバンドとしてはあれしましょこれしましょってすごく引っ張ってくれる。勿論ね、ベーシストとしても素晴らしいものがあるし。彼ね、すっげえ練習したと思うんですよ、バンドに戻るとなった時に。だって20年くらいほとんど弾いてなかった。うちに新潟から来て、鈴木くんと3人で炬燵囲んで(笑)2回くらいやったかな(笑)それで都雅都雅でやって。小林は小林で、bへの参加は大変な決心がいったと思う」 高田「そうなんですねー」 八野「あいつもね、やっぱり叩いてなかったみたいで。まあ遊び程度ではやってたみたいだけど」 高田「小林さん加入後の渋谷でのライブの時、勢いはすごいものがあるなあと思ったんです。それが逆に新鮮な感じにも見えたし。それが先日のライブではかなり熟れてきた感がして」 八野「彼の元々持ってるビート感みたいなの、岡部とはまた違ってすごく好きなんですよ。言ってみれば60年代のバンドのドラマーみたいな感じ。岡部は器用だからなんでも熟せるけど、持ってるそのままを出した小林の音ってすごく好きなんです。その結果があの7インチの2曲につながってる。岡部がやってたことをそのまま叩いても、出てくる音やビートの感覚は全然別物」 高田「確かに、都雅都雅の時のライブとそれ以降のライブではバンドの質感が全く違う。これが同じバンドか?って思うくらい」 八野「バンドはね、宮が居ないだけでも全然違うし、岡部が居ないとなれば明らかに違うし。でもそれはそれで新鮮になったりもする。岡部が今でも生きていたらまた違う方向に向かってたかも知れないし、居ないということで今の方向があるわけで。もし岡部が7インチの2曲を叩いていたら絶対にああいう感じにはならない。『四月の恋』とかね、岡部はすごい器用なことをやってる。小林はそういうタイプではないので、むしろバンドっぽくなる」 高田「なるほど」 八野「でもねそういう永年培ってきたものを失ってしまったのは仕方ないことでね・・。幸い僕もなんていうか完成されたアレンジとか完璧なプロデュースとかあまり好きじゃないからね。ちょっと粗があるとか物足りないとかってのが好きだから。それこそね、大滝さんくらいまで行ければいいんだけどそれは無理だし(笑)だからちょうどいいかなとね」 高田「大滝さんはー(笑)」 八野「レコーディングが終わって何かが残ればそれでいいかな」 夕闇を二人。鴨川を下る。 季節は春。桜が舞い散るにはまだ早い完全無欠の満開状態。 土手に座って春を満喫する人たち、がっつり宴会しちゃって盛り上がってるグループ、カップルで、ひとりで、親子で、友達同士で、この暖かなひとときよ永遠なれと言わんばかりに。美しき春。ああ春だったね。まさに雪解けの春とはこういう事なのか。 *『春の風が吹いていたら』鴨川にて 高田「やはり次はアルバムですかね」 八野「いよいよね、考えているんだけどね。『つまらない大人』からね、入れようとは思ってるけれどあれもう7年も前になるし」 高田「一度どこかで区切りをつけるという意味合いでも、ですか」 八野「最近の曲もね、出て来てるし、いろいろやってみて並べてみて。個人的にもね、そういうのが少しは考えられる時間も持てそうなので。何をするにも、次はアルバムしかない、という思いはある」 高田「着実にそれ(アルバム)に向かってる感はありますよね」 八野「止まってないのがなにより。時間ないってのに遅すぎなんだけど」 高田「いやでもそれが自分らのペースって事でいいんじゃないですか。結果どこにたどり着くのかってのが大事で。むしろそう考えれば慌てる必要もないかなと。ま、僕のようなものが口出す話じゃないですけど(笑)」 八野「終身名誉会長だからね(笑)」 *対談(男ふたり旅)を終えて。 実に八野英史という男はたくましい人物であった。 もちろんそれはわかっていたことではあるけれど。 音楽に身を捧げ、シャイではあるけれど志しはひたすら高い。 優しい口調の中に確固たる意志の強さを感じる。 自らがやってきたことをキチンと理解し消化し、次に繋げようとする努力を怠らない。そんな男だ。 だから僕らも含め、彼の作り出す音楽や言葉に魅了され続けているのであろう。 八野英史とb-flower、まだまだこれからが楽しみである。
2019年4月6日、春の京都にて。
取材・文・撮影:高田博之(ムクドリの会)