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ムクドリノート  特集レビュー 「純真 - you are the one for me - 」

 

*「純真」「舟(新録バージョン)」についてレビューを募集しています。字数制限もスタイル制限もありません。

曲を聴いて思ったまま感じたままを投稿していただければOKです。投稿された原稿は当サイト及びsugarfrostサイトに掲載予定です。

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現在皆様から投稿いただいている「純真 / 舟」の全てのレビューはこちらでチェックできます! ぜひともお読み下さい!

 http://sugarfrost.jimdo.com/にほんご/特集-純真/

 

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「今こそ、広く深く聴かれるべき彼らの歌」

 

文章 明山真吾(ムクドリ3号より転載。一部加筆修正有り)

 

雲の切れ間に、まるで真夏のような水色の空がみえた初夏の或る日。

シュガーフロストプロジェクト第2弾としてアナログ盤でリリースされるb-flowerの曲を聴く。

 

まず、新曲「純真」。

 

曖昧さも逃げ道もまるでないあまりにも純で、真っ直ぐすぎるラブソング。

清らかなメロディとけがれなき声で唄われるきみへの憶い。

さらに、聴き手の耳も心もとろけさせる丁寧で優しく美しいストリングスの音色のたまらないこと。

 

"誰かのため 生きてゆくんだよって 一度くらい言ってみたいよな"

 

かつてこのような詩を綴った口にした孤高の音楽詩人が紡いだこの曲をもしもあなたが聴いたなら。

きっと、メロディや詩、演奏や編曲などすべての要素が絶妙なバランスで鳴らされてしまったこの曲に、その耳と心をおおきく揺さぶられずにはいられないことでしょう。

 

そして93年メジャー初のシングル「舟」のセルフカバー。

 

本格的なバンドの再始動という帆を上げて、再びその舟を漕ぎ始めた彼らの心意気が伝わってくる決意の唄。

編曲面でいえば劇的な変化はないにも関わらず、彼ら本来の魅力である繊細さはそのままに、今の彼ら故の力強さをも感じとることができます。

 

彼らの歌を聴きながら、時に夜を飛び越え、時に雨をやりすごしながら、地図を持たずに人生という名の流れに永いこと身をまかせてきた僕ら。

そして、これからはじめて彼らの音楽に出会う人たちにも同じように新鮮に響き伝わる"音楽の架け橋"のようなこの2曲。

聴き逃すのは正味の話、ちょっと(いやかなり)もったいないことだと、そう僕は思うのです。

 

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「鈍く輝き、深く沁み、そこに在る、愛の歌」

 

文章 日下部将之(ムクドリ3号より転載)

 

夏目漱石は「I Love You」という言葉を「月が綺麗ですね」と訳したとされる。この話には諸説あるけれど、彼の作風から考えるに、デマとしても確かに良く出来た話ではある。で、仮にあったこととして、何故漱石がそんな訳し方をしたのかと考えるに、「あなたを愛してます」という直訳では、そのフレーズに生命を吹き込めないから、と漱石が判断したからではないだろうか、と僕は思っている。

 

「あなたを愛してます」とそのまま訳す、口にするのは簡単だけれど、本当に「愛してます」という言葉を相手に届ける際に、その言葉の意味を字義通りに伝えることができるのか。その言葉は辞書に載る意味通りに、生きた言葉として、生きた思いを込め、届けることが出来るのか。漱石は最後まで、「I Love You」という言葉を、その言葉のまま、ストレートに伝えられなかった。それは現実の生活においても、小説の中でも。だからこそ『それから』や『こころ』を書けたのだろうけれど、それは彼の周りの人、とりわけ家族たちに、様々な不幸をもたらしたと思う。

 

八野英史は今回、「純真」という新曲で、今までになくストレートな詞を書いた。過去の作品、直近の「四月の恋」と比しても、その差異に唖然とする。彼もまた「月が綺麗ですね」的な表現を常にしてきた人だから。

 

が、聴けば分かるはずだけれど、そこに違和感はない。それは今まで僕らがbを聴いてきて、「月が綺麗ですね」的な表現に込められていたものの中にあるメッセージを、ちゃんと受け取れてきたからだろうと思う。ただし、それはまた諸刃の剣で、bの、八野英史のリリシズムが、難解なものとして広まらなかった原因として、「月が綺麗ですね」的な表現が伝わってこなかったという現実があったと思う。だからこそ、僕は「純真」が嬉しい。

 

「純真」では、「月が綺麗ですね」的ではなく、そのままな言葉が、そのままの意味で届いてくる。漱石は『それから」』でも『こころ』でも『夢十夜』でも、結局「I Love You」という言葉を使えなかった。八野英史もFive Beans Chupの「結婚しよう」では、歌い手は子ども、という設定をすることで責任を巧妙に回避した上で「I Love You」と歌ったけれど、遠回りを必要とした。それくらい、言葉を大切にする者には高いハードルを、八野英史は今回越えてきた。「I Love You」と同じくらいにストレートで、同じくらいに重い「You are the one for me」というフレーズを使っている。それが、そのままの意味で、届く。鈍く輝き、深く沁み、そこに在る、解釈の逃げ場を排した、愛の言葉。漱石も、数多いる表現者の到達し難い領域に、八野英史は入ったのだと思う。ハードルを越えた先にある風景は、「月が綺麗ですね」の表現が抱える「意味を探す手続き」を必要としない、誰もにストレートに伝わる真っさらで鮮やかな世界が広がっている。

 

bが長い冬眠を経て復活したのは、きっとこの歌を歌うためだったのだ、と言い切ってしまおう。

 

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「no title」

 

文章 サロ(ムクドリ3号より転載)

 

「純真」 について書いてって言われていた時

ちょっと勘弁して欲しいなって

そう思った

正直なところね

 

あまりにも自分からかけ離れている歌だから

 

自分に合わないとか

好きじゃないとかでは無く

歌が始まった途端に

恥ずかしくて仕方が無い

 

真正面に鏡を置かれてるような

映っている自分に向き合う刑でも下されている様な感じ

 

人ってね

本当の事言われるとカチンてくるものなんだよねーって

周りの人にはチクチク言ってきたくせに

 

いざそれが自分に向けられるとね

それこそカチンてくる

真実こそ強いものは無く

速攻何処かに隠れてしまいたくなる

そこは、なるべく避けて通りたいところだもの

 

そんな感じの歌なんだよ

恥ずかしげもなくまっすぐな愛の歌

だから困っちゃうんだよ

 

職場で延々と小沢健二が流れていた日

上司に背中向けて泣いてた

これはもしかして意地悪されてるのかと思った

そう思う所がそもそも私の性格の悪さ

 

言葉にするのは苦手でも

ひとたび、文字として起こせば

気持ち悪い程正直というか素直になってしまう

 

そんな自分がほんとうに気持ち悪くてしょうがない

でもやめられない

 

気持ち悪い思いをしてまで

何処かで

自分を出さないといけない何かがある訳でも無いのに

 

だからなんだろうね

正直な部分に触れると弱いんだよね

 

でもね、此処では喋らなくていいから素直になれるよ

私には到底出来っこない形で寄ってこられると

もう、どうしたらいいのかわからなくなってしまう

底意地悪い性格の私には

あまりにも沁み過ぎて

此処まで培ってきたこの性格を

危うく浄化させられそうになる

 

いけない、いけない真っ白になってしまう

 

小沢健二の歌には光が差していた

銀杏ボーイズの峯田は 『光、光』と、

それを欲していた

 

「純真」にも光を感じる

 

柔らかい声で歌われても

優しい光のように感じても

ひとすじの光は

何者にも遮ぎれない強い光

 

こんな風に

優しく包む様に

だけど

真正面から歌われたらね

参ってしまうんだよなぁ

 

だって、タイトルやばいでしょ

「純真」って反則だよ

 

こんなに堂々と潔いタイトルは

若々しい青葉マークが張り付いた男の子か

一巡して辿り着いた大人にしか歌えないからね

 

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「枯れないネオアコ」

 

文章 高田博之(ムクドリ3号より転載)

 

「永遠の59秒目」、 「動物園へ行こうよ」に続く3曲目のセルフカバー「舟」。オリジナルは93年アルバム『World's End Laundry』に収録(後にシングルカット)された楽曲。前2曲のセルフカバーと同様、オリジナルに忠実なアレンジながらも大人になり成長を伺わせる演奏と歌声を聴く事が出来る。

 

一聴して感じるはそこに尽きるのだが(前2作のセルフカバーにも共通して言えることとして)曲全体から伝わってくるネオアコ然とした蒼さが全く色褪せていないのだ。むしろ年輪を重ねたことで余分な贅肉が削ぎ取られ蒼さそのものがハッキリ浮き彫りになる、そんな印象を受ける。

 

「青春の」とか「キラキラした」などど形容されるネオアコを取り巻くイメージ。孤高と言われるb-flowerもそんな様式の中、独自の世界観を持って確固たる地位を確立してきた。そして復活以降、成長と進化の表れが確実にその作品に反映されている。単純に語り尽くすことの出来ない純粋無垢で希有な存在として。現在進行形の生きるバンドとして。

 

純真が指し示すひとすじの光。

そこを目指し舟は旅立つ。

古い舟を動かすのは古い水夫ではないかもしれない。だが古い水夫は新しい海の怖さを理解しているからこそ新しい航海の方法を丹念に追求しじっくりとそして力強く歩み始められるのだと思う。

 

2015年、八野英史とバンドの描くヴィジョン、「つまらない大人になる」ことから始まった新たなる旅立ちは、向かうべき未来を明確に示し始めたような気がする。唯一無二な存在として、彼らの存在こそがこの絶望的な現代のひとすじの光と成り得ると確信する。

 

 

*b-flower「純真」「you  are the one for me」購入については、こちらをご覧ください。

http://www.breast.co.jp/b-flower/seedsrecords.html

 

 

© 2014 by Friends of b-flower + Livingstone Daisy

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